第2章「夕張祈願太鼓」の魅力と楽しみかた
1)夕張祈願太鼓の魅力と楽しみかた
夕張祈願太鼓は夕張太鼓の創設と同時に作られた最初の曲です。この曲は夕張太鼓の創設とともに作られたということで、本間宮司の思いが最も込められた曲であり、かつ夕張太鼓の魅力がたくさん詰まっている、見どころ聞きどころ満載の曲であります。
夕張祈願太鼓は、発足時の昭和45年に作られました。夕張祈願太鼓の紹介文には「ヤマの男の心意気」と「ヤマの安全・街の繁栄」を祈願して作られた曲であり、夕張太鼓の基礎となる曲として紹介されています。
この紹介文の中には、夕張祈願太鼓の「魅力のキーワード」が盛り込まれています。
まずは、「ヤマの男の心意気」です。夕張祈願太鼓がヤマの安全、街の繁栄を祈願するための曲であることは、容易に理解できるのですが、あえて創設の曲である夕張祈願太鼓に「ヤマの男の心意気」を盛り込む必要があったのは何故でしょうか?
本間宮司は、町の活気を取り戻すためには、炭鉱で働く人々が勇気と誇りを持って仕事をすることが必要であり、そのためには炭鉱マンの雄姿が再び脚光を浴びることが大切だと考えたのです。そのため、夕張太鼓でヤマの男が働く姿の雄々しさを表現し、太鼓に全力でぶつかっていく姿を見てもらうことで、ヤマの男の心意気を感じてもらい、人々の心を奮いたたせたかったのだと思います。
夕張太鼓は、その演奏の中に「坑内の轟音」、「危険」、「死」のイメージが表現されていると言われています。他の太鼓でみられる自然や豊作への感謝等の表現や、のどかさ、平穏さなどは曲中にはありません。そのかわりに、勇壮で活達、危険に身をもって挑む炭鉱(ヤマ)の男の力を「太鼓のバチさばき」で表現しているところに夕張太鼓の特徴と魅力があります。
炭鉱と地域そして人々の生活は一体のものだったのです。夕張という地で暮らす人々にとって炭鉱の繁栄こそが、全ての幸せに繋がることを実感してもらうため、それを太鼓で表現し、地域の皆さんに見てもらいたいという強い思いが、この夕張祈願太鼓にはあったのです。
~休憩~ coffee break1
夕張太鼓創設の背景
本編から少し離れて、コーヒーブレイクにしましょう。1杯目は「夕張太鼓創設の背景」です。
夕張太鼓が創設された昭和45年は、北炭夕張新鉱開発が着工された年です(三菱南大夕張炭鉱も操業が開始された年でもあります)。
当時、北炭はこれまで以上に近代的な炭鉱の開発を試みて新鉱開発に着手しました。その成功の鍵を握るのは、「炭鉱マンの奮起」だったのです。それは当然、夕張神社の本間宮司も承知のところでありました。
これまでの炭鉱の祈願、そして新鉱開発への安全祈願、さらに町の発展の祈願を込めて「夕張太鼓」が生まれたのです。
2)続・夕張祈願太鼓の魅力と楽しみかた
夕張祈願太鼓をいくつかに分けて見てみましょう。それぞれに魅力と楽しめるポイントがあります。
(1)序章~祈願、厳粛かつ勇壮な大太鼓の演奏
夕張祈願太鼓は、大太鼓を2人が交互に打つ序章から入ります。この入り方は、神楽太鼓の勇壮さを取り入れた曲にふさわしいオープニングです。
また違う視点から見ると、神社参拝の際によく聞く太鼓の曲調を取り入れた序章であると解することもできます。それは、この祈願太鼓が神聖なものであることを裏付ける証しなのです。
では、この序章を観客としてどのように楽しむかでありますが、序章は夕張祈願太鼓の厳粛さと勇壮さがぎっしりと詰まったパートですので、大太鼓の打ち手が、創設当時の本間宮司にどれだけ近づき、そしてそれを超えた演奏ができているのかを「バチさばき」や「音色」で感じてみて下さい。きっとそこに宮司の姿を見ることができるはずです。
(2)序章に続く大太鼓・宮太鼓~ヤマの男の心意気の演奏
序章のあと、大太鼓のリードが「ドン・ド・コ・ドン・ド・コ・ドン・ドコ・ドン」と入り、それに続いて宮太鼓の打ち手が同じリズムで一斉に叩き始めます。
これは、坑内~地底の鼓動を表しているかのような力強いリズムです。また、炭鉱マンが地底の中で命をかけた仕事を行う際の鼓動の高鳴りを表しているかのような響きにも聞こえます。
ここは、打ち手が全身全霊で太鼓を叩き「ヤマの男の心意気」を表現しているパートです。炭鉱マン姿と重ねて見てください。
(3)大太鼓2人の打ち合い+宮太鼓打ち手の魂の演奏
前記したリズムを2回繰り返したあとは、再び大太鼓のパートになります。この大太鼓のパートは、炭鉱マンが地底を移動する様子を表しているものと解釈しています。このパートも大太鼓の迫力を楽しむことができる部分であり、序章とあわせて大太鼓を楽しむことができるパートです。
さらに、宮太鼓で静かにリムズを刻みなながら左右に小さくスイングしている打ち手に注目して見て下さい。大太鼓の前で静かにリズムを刻む宮太鼓の打ち手は、呼吸を整えているようでもあり、大太鼓の響きは、地の底から聞こえる炭鉱マン達が石炭を掘り出す音なのです。
そして、この部分は夕張祈願太鼓では最も難しい表現の部分であります。これから始まる地底での生死をかけた仕事に挑む炭鉱マンの緊張を表現し、その胸の鼓動をバチさばきや体で表現することは容易ではありません。このパートがしっかりと演奏できている打ち手を見ると、胸が熱くなります。ぜひ宮太鼓の魂の表現に注目してご覧下さい。
(4)宮太鼓~坑内で働くヤマの男の表現
その後、「ド・ドン・コ・ドン」、「ド・ドン・コ・ドン・ドン・ド・コン・コ・ドン・ドン」、「ド・ドン・コ・ド・ドン・コ・ド・ドン・コ・ドン・ドン」など大太鼓リズムにあわせて宮太鼓を一斉に打ち鳴らして行きますが、このパートはどれも坑内の炭鉱マンの働く姿を表現しています。
見方によっては、打ち手のバチさばきがそろっていないように感じることもありますが、炭鉱マンの表現としては、重いツルハシを振り下ろすときの姿は千差万別であり、個人個人によって一番力が入る振り下ろし方が違うので、この個々のスタイルで表現するのが正解なのです。
実際に、創設時には準備・練習に1年以上を費やしたとありますが、本間宮司の元に集まった炭鉱マンの打ち手は、太鼓演奏の素人だったはずですので、1年で太鼓独特の動きを習得するのは至難の事であったと思います。そこで、普段、自分達が仕事をしている様子を表現するという事によって、夕張太鼓スタイルを確立し、合理的なバチさばきの技法が出来上がっていったのだと考えます。
観客側としては、打ち手の姿にどれだけ炭鉱マンの心意気が感じることができるかが、この曲の楽しみの一つとなっております。
(5)終章~再びヤマの男の心意気の演奏、そして町の繁栄祈願へ
終章は宮太鼓の打ち手全員でヤマの男の心意気を打ち鳴らすとともに、町の繁栄の願を込めて全力でバチを振り下ろす演奏です。左手を頭の上から「ため」を作ってから、一気に振り下ろす演奏技法は圧巻です。
ここまで全力で太鼓をたたいているため、無尽蔵の体力を誇る炭鉱マンの打ち手であってもかなり辛いはずです。しかし、坑内での労働の過酷さは入った者にしかわからない辛さであり、それを表現するには、歯を食いしばってでも最後まで太鼓を向き合い、全力でバチを振り下ろさなければならなかったのです。他の太鼓演奏ではタブーとされている、下を向いて笑顔の無い演奏も、夕張太鼓では、太鼓から目を話すことなくバチを振り下ろし、辛い顔もすべて表現の一つなのです。それをヤマの男の心意気として表現をしていることが夕張祈願太鼓の魅力であります。
(6)結びに
夕張太鼓が創設されてから、年に1度の炭山祭りでは、市内地域の30数箇所を、朝から陽が沈むまで太鼓演奏をしていたそうです。現在は、ゆうばり桜まつりを名前が変わってしまいましたが、毎年5月には、夕張神社例大祭が行われており、朝に夕張神社前を出発し夕方まで市内各地を回っております。
夕張祈願太鼓を聞くなら、この夕張神社例大祭の出発前に演奏する演奏を是非聞いて見て下さい。
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